目上の人にメールを送る際は、頂くと戴くの使い分けで迷いがちです。言葉の意味を知っておけば、シーンに合わせて使い分けができるようになるでしょう。頂くと戴くの違いや、使い方を理解しやすくなる例文を紹介します。 「頂く」と「戴く」の意味 いただくという言葉には、『頂く』と『戴く』の2種類の漢字表記があります。それぞれの具体的な意味や違いをチェックしておきましょう。 「頂く」は食べる・飲む・もらうの謙譲語 いただくを『頂く』と書く場合は、『食べる・飲む・もらう』を意味する動詞となります。自分の行為をへりくだって表現する謙譲語の一つです。 いただくは、『会議に参加していただく』『メールを送信していただく』のような使い方をすることもあります。この場合のいただくは動詞ではなく、動詞の後に付けて用いる補助動詞です。 動詞として使う場合は漢字の頂く、補助動詞なら平仮名のいただくとするのが望ましいとされています。『お願いいたします』の『いたす』や、『やってみる』の『みる』などと同じく、補助動詞は漢字で書けるものでも平仮名で書くのが基本です。 「戴く」は「頂く」とほぼ同じ意味 いただくの漢字表記には、頂くだけでなく『戴く』もあります。戴くは頂くと同様に、食べる・飲む・もらうの謙譲語です。戴くと頂くの意味にはほとんど違いがありません。 頂くより戴くの方が、相手に強い敬意を示せます。よりありがたいものを受け取ったときや、目上の人を相手に文章を書くときは、頂くではなく戴くを使うとよいでしょう。 『戴』を用いた主な熟語は、『奉戴(ほうたい)』『戴冠(たいかん)』『戴天(たいてん)』です。いずれも『ありがたく受け取る』や『高々と物を掲げる』の意味で戴が使われています。 「頂く」と「戴く」の違いとは? 頂くと戴くは漢字の種類が違います。頂くが常用漢字であるのに対し、戴くは常用外漢字です。国や公共団体が作成する公用文には頂くが用いられます。 ビジネスやプライベートで文章を書く場合も、一般的には頂くを使います。相手の立場や年齢が非常に高く、よりかしこまった文章にしたいケースでは、戴くを使えばより強い敬意を示すことが可能です。 戴くは主に物品を受け取るときに使われる点にも注意しましょう。食事をした際に戴くを使うのは、間違いではありませんが相応な言葉でもありません。 「頂く」と「戴く」の例文 頂くと戴くの使い方を例文で確認すれば、実際に文章を書くシーンで役立てられるでしょう。頂くは食事をしたとき、戴くは物をもらったときによく使われます。 食事をしたとき 食事をする自分の行為をへりくだって相手に伝える場合は、頂くを使うのが基本です。次の例文で使い方を確認しましょう。 私は追加のオーダーは結構です。おいしいお食事を十分に頂きました。後は皆様でお召し上がりください 頂くを使えるシーンは、相手から提供された食事をしたときに限らないのがポイントです。単に飲食することを示すケースでも、以下のような使い方ができます。 懇親会へお誘いいただきありがとうございます。お酒も多少は頂きますので、喜んで参加いたします 到着時間が遅れるとのご連絡ありがとうございます。失礼かとは思いましたが、私たちは先に食事を頂いておりますのでご了承ください 相手が食事をする行為に対しては、頂くではなく『召し上がる』や『お食べになる』を使う点に注意しましょう。 物をもらったとき 立場が上の人や取引先から物をもらったときは、戴くを使うことで相手への敬意を強調できます。例文は以下の通りです。 今年から取引を始めたA社から、高価なお歳暮の品を戴きました。わが社はA社にお歳暮を贈っていないため、相応のお返しを考えなければなりません 臨時ボーナスとして社長から社員全員が金一封を戴いた。自分を含め、社内のみんなのモチベーションがかなり高まっている 金品以外のものを受け取った際も、強い敬意を表したい場合は、次の例文のように戴くを使えます。 このたびは営業優秀者表彰を戴き、大変光栄に存じます。今後もスキルアップに励み、会社の益々の発展に貢献できるよう全力を尽くしていく所存です 「頂く」と「戴く」の言い換え表現も紹介 『食べる』や『もらう』の謙譲表現には、頂くと戴く以外にもさまざまな言い換え表現があります。代表的な言葉を知り、シーンに合わせて使い分けましょう。 食べ物・もらうことに対して使う「頂戴」 頂くと戴くの言い換え表現としては、それぞれの漢字を用いた『頂戴(ちょうだい)』が挙げられます。『頂戴する』と動詞にすれば、食べる・飲む・もらうの謙譲語として使うことが可能です。 弊社のプロジェクトに対する有益なアドバイスを頂戴したこと、深くお礼申し上げます。今後の業務に反映させていきたいと考えております このたびは私たちのために素敵な料理をご用意いただき、感謝のあまり言葉もございません。皆様のお気持ちを受け取りながら、ありがたく頂戴します なお、『頂戴いたします』という表現は、2つの敬語を使用した二重敬語です。広く一般化している表現ですが、厳密には『頂戴します』が正しいことを覚えておきましょう。 目上の人に使う「賜る」 目上の人から物や言葉などを受け取る場合は、頂くや戴く以外に『賜る(たまわる)』も使えます。賜るを用いた例文は次の通りです。 このたびは先生のご指導とお力添えを賜り、誠にありがとうございました。先生のご協力がなければ、イベントは失敗に終わったのではないかと考えております 結構なお品を賜りましたこと、重ねて感謝申し上げます。部長のご健康とご多幸を家族一同心より祈念しています 頂くや戴くに比べ、賜るはかなり丁寧な言葉です。同じ相手に対して頻繁に使用すると、逆に失礼な印象を与えかねません。 受け取るをへりくだった「拝受」 ビジネスシーンで取引先から連絡や書類などを受け取る際は、『拝受(はいじゅ)』がよく使われます。拝受とは、受け取ることをへりくだって言う言葉です。拝受を用いた例文を紹介します。 昨日お送りいただいた商品を本日拝受しました。迅速なご対応ありがとうございます 週末のミーティングの資料を確かに拝受しました。お忙しい中ご足労いただき感謝しております 拝受の『拝』には、『ありがたく思う』『頭を下げる』といった意味があります。ありがたく感じて礼を述べる『拝謝』や、目上の人にお目にかかる『拝謁』が、拝を使った代表的な熟語です。 ビジネスでの「頂く」と「戴く」の使い方 頂くと戴くは、ビジネス文書でどのように使い分ければよいのでしょうか。適切な考え方と平仮名のいただくについて解説します。 基本的には「頂く」を使う ビジネスシーンで頂くと戴くの使い分けに迷う場合は、頂くを選ぶとよいでしょう。公文書での使い方にならい、ビジネス文書でも頂くを使うのが基本となっています。 ただし、相手に対する敬意をより強めたい場合は、あえて戴くを用いるのも効果的です。相手との関係性や状況を考慮し、頂くと戴くをうまく使い分けてみましょう。 相手に食べ物や飲み物を勧める際は、『召し上がる』や『お飲みになる』などを使わなければなりません。頂くや戴くは自分の行為を表す言葉です。『温かいうちに頂いてください』などと言わないように注意する必要があります。 「いただく」と平仮名で表現することも いただくを補助動詞として用いる場合は、平仮名で表現するのが基本です。平仮名のいただくは、『お越しいただく』や『ご返送いただく』など動詞の後ろに付けて使用します。 『お越し頂く』のように漢字で表現しても間違いではありません。しかし、いただくをはじめとした補助動詞は、平仮名で書くのが望ましいとされています。 文章全体を通して漢字が多い場合は、本来なら頂くや戴くと書くべき部分を、あえて平仮名で書く方法もあります。漢字を減らすことで、文章を柔らかい印象にしたり読みやすくしたりすることが可能です。 構成/編集部
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