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Tuesday, May 31, 2022

他人の言葉をそのまま受け取らないで、自分の言葉を取り戻す【他人の言葉をスルーする技術】5 | サライ.jp|小学館の雑誌『サライ』公式サイト - serai.jp

「人の言葉は重要だ」「人の話を聞かなければならない」という認識が、暗黙のうちに植え付けれられていることがあります。しかし、そう思いすぎることで、真面目な人、気持ちの優しい人ほど、人の言葉に振り回されてしまい、生きづらさを抱えてしまいます。

そこで、心理カウンセラーのみき いちたろう先生の著書『プロカウンセラーが教える 他人の言葉をスルーする技術』から、他人の言葉をスルーし、言葉に振り回されない方法をご紹介します。

文/みき いちたろう

他人に振り回されない「自分の言葉」を取り戻せるのか?

言葉に振り回されやすい人というのは、自分がない、自分の言葉がないという傾向があるようです。つまり、言い換えると、スルースキルを身につけるとは、自分の言葉を取り戻すということだと言えそうです。そして、自分の言葉を取り戻すためには、自分の基準で言葉を取捨選択し、どのように解釈するかも自分で決めることが必要になります。

ここであなたが不安になるのは、「本当に自分にそれが可能なのか?」ということではないでしょうか。

「それは意気込みとしては理解できるが、日常では、たとえば会社であれば上下関係もある。仕事ではとくに相手の言うことを正確に受け取らなければならない」「どうしても振り回されてしまうし、そこから抜け出せるとは思えない」「仕事以外の場面でも、できるかぎり相手の言葉をちゃんと聞こうとしてしまう。たしかに、相手の言葉が戯言のようなものだということもわかったが、かといってスルーして話を聞かなければコミュニケーションにならないではないか」などと。

たしかに、言葉に振り回されやすい人にとっては、他人の言葉をスルーするとはかなりの離れ業のように感じられていることでしょう。

とくに、言葉をちゃんと聞かなければならないという信念はなかなか強力で、自分の基準で取捨選択したりするのではなく、できる限り相手の発した言葉をそのまま受け取ることが必要だと感じています。

それはさながら、高校受験、大学受験の際の現代文や英語の読解問題のように、正解があってそれに沿って正しく読み取らなければならないと感じているのです。この「前提」は、自分の言葉を取り戻すことを阻む大きな要因となっています。

しかし、実際はそうではありません。「自分の言葉」を取り戻すとは、決して逆風の中で山の頂上に旗を立てるといった取り組みではありません。他人に対して敵対的になるとか、状況に逆らうということでもありません。

言葉をスルーする、「自分の言葉」を取り戻すとは、人間関係や組織においてはむしろ関係を機能させる行為として歓迎されることです。そして、言葉はスルーされることで命が宿ります。

「スルーされることで命が宿る?」と不思議に思われるかもしれませんが、職場を中心に日常生活での関係の実際、“スルーのメカニズム”を見ていきたいと思います。日常生活、人間関係における言葉の実際を知ることが「自分の言葉」を取り戻してスルースキルを身につけるための一番の近道になります。

他人の言葉をそのまま受け取らないのは自然なこと

近年は、新型コロナウイルスの影響もあって、「免疫」ということをよく耳にするようになりました。「免疫」のしくみを眺めてみると、私たち人間は外界から入ってくるものに対しては必ずチェックを入れ、異物は除外するものだということがわかります。

経営者が書いたビジネス書などでは、「上司の話は少々の無理でも全部素直に受け取る(そうしないと成長しない)」といったようなことが書かれてありますが、そんなことはあり得ません。

外界にあるものというのはさまざまな有害物も混ざっています。自分の身体には毒かもしれません。「他人の言葉」も同様です。そのまま受け取ることはできません。

H・G・ウェルズの『宇宙戦争』では、地球に侵略してきた宇宙人は免疫がなく、最後はウイルスにやられてしまいます。言葉をスルーせずに受け取るというのはまさにその宇宙人のような状態になってしまうということです。言葉に振り回されて、自分が死んでしまいます。

生き物は外界からくるものをまずは除外する。チェックを通ったもののみを受け取ります。しかし、振り回される人たちは、まずは素直に受け取らなければならないと思わされています。そして実際に、言葉に付随するさまざまなネガティブな要素に振り回されてヘトヘトになっています。健全な状態であれば、外からくるものはまず除外する。そしてチェックが入って安全のものだけを通すことが自然なのです。

真の意味での「素直」とは、除外とチェックのプロセスが自動化されてスムーズに見える状態を言うのかもしれません。

日常生活でもある「やり過ごし」の機能

先に会社を例として取り上げましたが、実は、「やり過ごし」が人間関係をよりよく機能させることは日常生活の場面でも同様です。

言葉に振り回されやすい人は日常での人間関係でも、他人の言葉を受け止めることが当たり前だと思っています。スルーするなんてとても難しいことだと。しかし、そのことが、実は人間関係をおかしくしてしまっているのです。

友人関係でも、「うんうん」と耳を傾けながらも違和感を覚えたなら、「それは違うかも」と伝えることが必要です。「自分はこう思う」と自分の意見を言うことは、人間関係においてはとても大切なものです。友達同士は太鼓持ちやイエスマンではないのですから、率直に言ってもらうことで、いろいろなことに気が付けるものです。

受け取る側も自分に合わなければ、「言葉」を受け取らなくて当たり前です。伝えた意見がその人に合うかどうかはその人にしかわかりません。だから、合わないものは除き、その人に合う形で受け取ってもらえることは、本来、伝えた側にとっても喜ばしいことなのです。

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みき いちたろう
心理カウンセラー、公認心理師。大阪生まれ。大阪大学文学部卒、大阪大学大学院文学研究科修士課程修了。在学時よりカウンセリングに携わる。大学院修了後、大手電機メーカー、応用社会心理学研究所、大阪心理教育センターを経て、ブリーフセラピー・カウンセリング・センター(B.C.C.)を設立。トラウマ、愛着障害などのケアを専門にカウンセリングを提供している。

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