サウンドバーが人気だ。背景には、巣ごもりで映像配信やゲームを楽しむ人が増えたというのがあるが、それだけでなく、低価格で音が良いサウンドバーが増えたというのもあるだろう。実際、サウンドバーのニュースやレビュー記事のアクセスは多く、読者の注目度も高い。
そんな“アツい市場”にニューフェイスが登場した。米国のPolk Audio(ポークオーディオ)というブランドだ。「え、ポーク? 豚肉?」と思ってしまうが、ポークは人の名前だ。しかも先程“ニューフェイス”と書いたが、実はPolk Audioは来年で誕生から50周年を迎える。日本で馴染みがないだけで、ニューフェイスどころか“老舗オーディオブランド”と言っていい。さらに、米国では高音質かつリーズナブルな値段のオーディオを作るブランドとして人気があり、パッシブスピーカー市場では20年近くシェアナンバーワン争いを繰り広げている。日本で登場したのが最近なので、なんかポッと出のブランドみたいに見えるが、実はグローバル市場で戦い続けているバリバリの大手ブランド。その実力に期待が高まる。
もう1つ見逃せないポイントがある。このPolk Audio、実はデノンやマランツでお馴染み、ディーアンドエムホールディングスのグループ会社なのだ。それゆえ、デノンやマランツ製品と、技術やパーツを一部で共有している。つまり、「海外ブランドの製品を買ってきて日本で売ってるだけ」ではない。もちろん、開発や音決めなどはPolk Audioで行なっているが、共有できるところは共有してコストを抑えているわけだ。さらに見逃せないのは、クオリティコントロールまで同じ体制が採用されている事。要するに故障率の低さとか品質の高さ、サポート体制なども、デノンやマランツ製品とほとんど同じで安心というわけだ。
要するに「ニューフェイスに見えるが、実は老舗で、音も製品としてもクオリティも高く、それでいて価格を抑えたブランド」がPolk Audio。こう書くと急に「最高じゃん」という気がしてくるが、実際にサウンドバーの新モデル「REACT」を使ってみたところ、「なにコレいいじゃん」となったので、その内容をお届けする。なお、価格はオープンプライスで、実売は29,700円前後と、期待通りサウンドバーとしては購入しやすい価格になっている。
そもそもPolk Audioとは
「来年で誕生から50周年」と書いたが、Polk Audioの創業は1972年。舞台は米国のボルチモアにあるジョンズ・ホプキンス大学。大学で出会った音楽仲間で、エンジニア同士で、友人でもあるメンバーが「生ライブの臨場感を家でも楽しめるスピーカーを作ろうぜ」と始めたのがきっかけで、メンバーの中心人物がマシュー・ポークさんだったので、“Polk Audio”になったそうだ。
その後、1974年に発売した「Monitor 7」というスピーカーがヒットモデルに。高音質さだけでなく、購入しやすい価格である事も市場で人気となり、知名度を高め、やがて現在のようなグローバルなオーディオブランドに成長。今でもスピーカーやサウンドバーを手掛けているわけだ。
前置きが長くなったが、今回取り上げるサウンドバー「REACT」を見ていこう。サブウーファーなどが別体になっていない、一体型筐体の2.0chタイプ。これだけで完結するため、シンプルに設置できるのが魅力だ。
外形寸法は864×121×57mm(幅×奥行き×高さ)と、50~55型などの大画面テレビにも対応できる。注目ポイントは一体型ながら57mmと薄い事で、テレビ画面を邪魔しにくいので、これも設置のしやすさに寄与している。
サウンドバーはテレビの下に設置するため、そのまま前に音を出すと、“画面の下の方から音がする”という違和感が発生する。そこでREACTは、96×69mmのオーバルタイプウーファーを2基、上向きに配置。25mm径のアルミニウムツイーター2基は、前向きに配置している。指向性の高い音は前に出しつつ、それ以外の帯域は上に放出する事で、音像の定位を上げ、“テレビ画面から音がしている”感じになるよう工夫しているわけだ。
さらに、一体型サウンドバーで不足しがちな低域を補うために、100×110mmのオーバル型パッシブラジエーターも2基内蔵した。これらユニットを内蔵しながら、この薄さを維持しているのはスゴイ。
サウンドモードとして「ムービー」、「ミュージック」、「スポーツ」、「ナイトモード」を用意。リモコンからワンボタンで呼び出せる。ナイトモードは、音のダイナミックレンジを抑えるもので、隣の部屋で寝ている家族などに配慮したモードだ。
これらのモードとは別に独自技術「Voice Adjust」機能も備える。映画やドラマのセリフ、スポーツ中継でのアナウンサーの声などを鮮明に再生するもので、効果の量はユーザーが調整できる。また、低域の量感の調整も可能だ。
これらを組み合わせて、好みのサウンドに調整できるわけだが、一方で「バーチャルサラウンドなんとか」とか「ドルビーバーチャルなんとか」などの、いわゆるバーチャルサラウンド機能は備えていない。このあたりが、実際の試聴でどう影響するかは後述する。
サラウンドのデコードは、ドルビーデジタル、DTS、リニアPCMに対応。AACには非対応なので、テレビ側のPCM変換出力機能をONにして接続すると良いだろう。
シンプルなサウンドバーだが、接続方法もシンプル。HDMI ARCに対応しているので、対応するテレビとHDMIケーブル1本で繋ぐだけ。あとは電源ケーブルを挿して終わりだ。HDMI CECにも対応しているので、テレビのリモコンでサウンドバーの音量調整も可能。AV機器に詳しくない家族でも毎日活用するという面で、地味だが、大切なポイントだ。HDMI以外にも、光デジタル音声入力も備えている。
テレビ番組の音が激変、映画でわかる“音作りの上手さ
音楽再生の実力も気になるが、まずはテレビの音をチェックしよう。比較として、まずはテレビ内蔵スピーカーでNHKのニュースを再生。男性アナウンサーが喋っているが、声は腰高で、スカスカした音で、プラスチックの響きのような付帯音もまじって、不明瞭。お世辞にも良い音とは言えない。
REACTを接続して音を出してみると、これが激変する。まずは低音が……という細かい次元ではなく、もはや音がまったく違う。スマホ内蔵スピーカーとコンポの音を比べているような別次元の音だ。
アナウンサーの声がしっかりと人間の声になり、声の低い部分がしっかりと低音として響く。中高域の付帯音も無く、クリア。そしてなにより、音の広がりと奥行きが一気に深くなるため、「なんか人の声がするだけだったテレビ」が「広がる音場の中に、男性アナウンサーの音像がキッチリ定位するオーディオ」になったような感覚だ。音像にもしっかり奥行きがあるために、カキワリみたいだったアナウンサーが、“人間になった”感じがするのだ。
アナウンサーの声だけでこれだけ違うので、他の番組を見てもまるで世界が違う。「新美の巨人たち」で神田明神を取り上げていたので観ていたのだが、テレビ内蔵スピーカーではゴチャッっとくっついていた女性のナレーションと背後のBGMが、REACTではキレイに分離され、ナレーションが手前に、BGMが奥にと、奥行きが生まれる。ナレーションの声も深く、輪郭が明瞭で聴き取りやすい。さらに、BGMの低域にグッと深みが出て「なんて曲なんだろ? CD欲しいな」などと考えてしまう。映像にはまったく変化がないのだが、音が深くなると、なんだか番組そのものの深みも増したようで面白い。
街中を歩いてグルメレポするような番組でも、レポーターの背後の道路で車が移動する、移動感、すれちがう通行人の声などがリアルに聴き取れ、“その場にいる臨場感”が大幅にアップする。
映画となると、さらにサウンドバーの威力が発揮される。Netflixで「タイラー・レイク」や「オールドガード」を再生してみたが、荒野やスラム街など、環境音から感じる空間の広がり、銃撃戦の迫力などが桁違いにアップする。
特に優秀なのが低音。一体型サウンドバーだが、大型のウーファーとパッシブラジエーターを搭載しているだけあり、ズシンと深く沈む迫力の低音が楽しめる。標準状態でもバランスの良い音が楽しめるが、「BASS」を+2くらいすると、映画らしい迫力が存分に味わえる。
また、独自技術「Voice Adjust」もよくできている。効果をプラスにしていくと、登場人物の声や、銃撃の金属音など、細かな音が明瞭になり、クッキリとした音になっていく。「オールドガード」序盤に主人公達が罠にハマって蜂の巣になるシーンで、床に落ちる薬莢のチリンチリンという金属音がシャープだ。それでいて、輪郭を過度に強調したキツイ音にはならず、このあたりのサジ加減が見事。BASSとVoice Adjustをどちらも+2くらいにすると、迫力が増した低域に、中高域が負けなくなり、迫力アップと情報量増加の“いいとこ取り”ができる感じだ。
サウンドモードも「ムービー」を選ぶと広がりがアップ。テレビ画面よりもさらに横方向に音場が拡大され、音に包み込まれるような感覚が味わえる。バーチャルサラウンド機能や、ビームスピーカーなどを搭載した製品と比べると、広がる範囲自体はそこまで広くはない。ただ、REACTの良いところは、過度に音をいじった感じにならず、自然な音のまま広がるところにある。バーチャルサラウンド系の技術では位相が狂ったような、不自然な音になるものもあるが、REACTではあくまで“スピーカーとして自然な音”を維持し、無理して広げすぎていない。このあたりの音作りのセンスの良さ、オーディオメーカーらしい考え方が、とてもいい。
一方で「スポーツ」モードでは、よりメリハリがアップした音になり、スタジアムの臨場感や、選手やボールが発する小さな音も聞き取りやすくなる。
REACTの、ニュートラルな音の良さを一番発揮できるのは「ミュージック」モードだろう。テレビの歌番組だけでなく、音楽配信サービスで楽曲を再生する時にも「ミュージック」が一番しっくりくる。音楽を聴きながら「Voice Adjust」をUPしていくと、歌声が明瞭になるほか、低域もよりソリッドになり、ビートのキレがアップし、気持ちの良い音になっていく。
「YOASOBI/夜に駆ける」や「Official髭男dism/Universe」なども、ビートのキレが大切なので、Voice Adjustを上げ目にするとマッチする。それにしても、一体型筐体かつパッシブラジエーターで、よくこれだけ量感と締りのあるタイトな低域が再生できるものだ。恐らく搭載しているウーファーユニットや、それを動かすアンプの駆動力が高いのだろう。低域がボワボワ膨らんで、不明瞭になる事がまったくないのはスゴイ。
ゲームの迫力も大幅アップ
これだけクオリティの高い低域が出るなら、ゲームにもマッチするはず。PS4を接続し、人気のバトロワゲーム「Apex Legends」をプレイしてみたが、これも迫力満点だ。
テレビ内蔵スピーカーでは、銃を撃っても「スコココ」みたいな、プラスチックの板を指で弾いているようなショボい音しかしないのだが、REACTから再生すると「ズドドドド!!」と、同じ銃とは思えないような音がする。低域の迫力が増した結果だが、それと同時に、ハイサイクルな連射でも音がゴッチャにならず、キッチリとキレ良く分離して聞こえるので、撃っていて気持ちがいい。
そんな銃撃音に酔いしれると同時に、その音の響きが草原に広がる様子もREACTではキッチリと描いている。“広大な空間で戦っているんだ”という臨場感もアップするため、当然ゲーム自体も面白くなる。ただ、残念ながらプレイが上手くなるわけではない。
音作りの上手いサウンドバー
REACTをテレビに接続し、1週間ほど使った感想は「音作りの上手いサウンドバー」の一言に尽きる。低域から高域までバランスよく再生してくれるので、そのままでも満足度が高いのだが、BASSやVoice Adjustを調整していっても音が破綻せず、迫力や明瞭さだけをアップできる。
サウンドモードを変更しても、大幅に音が変化しない代わりに、どのモードも音作りが上手く、絶妙な範囲で広がりをアップさせたり、低域を控えめにしたりと、モード選択後の“しっくり感”が強い。つまり「これは使わないな」という設定やモードが無く、どの機能も「お、これいいじゃん」と活用したくなる感じなのだ。
ニュースからバラエティ、映画、ゲーム、そして音楽と、どんなコンテンツでも満足度高く再生してくれ、苦手なソースが無い。誰が、どんな用途に使っても、納得感・満足度の高い音を再生してくれる。“音作りが上手い”と言うほかはない。
また、音が自然で、過度にいじったサウンドになっていないため、オーディオファンも聴いていて落ち着く音だ。ピュアオーディオ用スピーカーでは当たり前かもしれないが、サウンドバーで“無理していない音”を手に入れるのは、意外に大変だったりする。
ライバルという意味では、デノンのサウンドバー「DHT-S216」と似た雰囲気も感じる。比べてみると、DHT-S216は「よりピュアオーディオライク」なサウンドで、マニアがニヤリとする傾向だが、逆に言うと「人を選ぶサウンドバー」とも言える。
一方でREACTは、オーディオライクな、無理のないニュートラルさ、バランスの良さを実現しながら、「映画ではやっぱり肉厚な低音も欲しいよね」とか「音楽では突き抜けるような高域の気持ちよさも欲しいよね」といった欲求も、キッチリ満たしてくれる。それでいて、低域や広がりを頑張りすぎて不自然な音になることもない。この“かゆい所に手が届くような絶妙な音作り”がREACT最大の魅力といえる。このサウンドが実売約29,700円は、かなりお得感がある。
マニアも、そうでない人も、誰もが“良い音”と感じるサウンドバー。リビングで使うオーディオとして、最も大切な部分に力を注いでいるのがわかる。海外で高いシェアを誇るのもうなずける完成度の高さだ。
(協力:ディーアンドエムホールディングス)
からの記事と詳細 ( “音作りの上手さが光る”注目サウンドバー、Polk Audio「REACT」 - AV Watch )
https://ift.tt/2OmKO31
科学&テクノロジー
No comments:
Post a Comment