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Thursday, April 6, 2023

【特集】先輩の講演から「自ら考え、発信する」勇気を受け取る ... - 読売新聞オンライン

 恵泉女学園中学・高等学校(東京都世田谷区)で2022年11月2日、同校の卒業生で世界的に活躍するクリエイティブディレクター小池一子氏の講演会が開催された。在学中に受けた教育のことや「クリエイティブ・マインド」の大切さについて語る小池氏の言葉から、「自ら考え、発信する力」「育てたい四つの生徒像」など、同校の掲げる教育目標の意味を読み解いていく。

 昨年11月2日、同校の「フェロシップホール」を会場に、卒業生でクリエイティブディレクターの小池一子氏による講演会が開かれた。小池氏は、国内外で数々の美術展を企画しており、スーパー「西友」のプライベートブランド「無印良品」の創設に携わったことでも知られる。この日は自身の活動の核である「クリエイティブ・マインド」をテーマに、会場の高3生約180人と、教室でオンライン配信に聴き入る他学年の生徒に対して語った。

 「クリエイティブ・マインドとは、創造性、独創性ということです。これは何も特別なものではなく、日常の中で鍛えられるものです。お買い物で食器を選んだり、毎日、何を着ていこうかと考えたりする。どうすれば毎日が面白くなるかと考えることでクリエイティブ・マインドが磨かれていきます」

 また、友人と出会い、語り合うことの重要性も説いた。「編集者やキュレーターとして活動する中で、多くの才能ある方々と出会いました。気鋭のファッションデザイナーやアーティスト、環境活動家やライターの方と時間を忘れておしゃべりしました。そこで刺激を受けて、その方が専門とする分野を勉強し、私のアイデアを添えて広告や記事、作品展示という形に表現してきました。人間は一人では生きられません。今みなさんの周りにいる友人や家族、先輩、それから社会に出れば仕事仲間とも出会います。その中にもとてもすてきな人がいるはずです。その方々と語り合って刺激を受けることが成長の糧になるのです」

 講演のあと、入試広報部の徳山元子先生は、こう感想を話した。「社会人になった教え子から、たびたび『恵泉出身者はすぐ分かる』と言われるんです。会議の場などで初対面でも『私はこう思います』と率直に話すから、もしやと聞いてみたら、やっぱりそうだったと。小池氏の講演からも、本校の教育目標である『自ら考え、発信する力』を養い、それを発揮してこられたことがうかがえ、恵泉を卒業した先輩らしいと感じました」

 「自ら考え、発信する力」を養う中で育てたい生徒像として、同校は「個としての自覚に目覚めた女性」「平和への不屈の意志を持つ女性」「『いのち』」の尊さを知る女性」「知的探究心と確かな学力を備えた女性」の四つを挙げている。

 まず、「個としての自覚に目覚めた女性」を育てるため、同校は徹底して自分と向き合う指導を行う。その一つが「感話」という取り組みだ。生徒は日頃感じたり、考えたりしたことを文章にまとめ、毎朝の礼拝時に他の生徒たちの前で話す。生徒1人につき年3回、感話を発表する機会があり、スピーチの技術も磨かれていくという。

 「理想の生き方、友人との関係、留学から学んだこと、哲学や芸術についてなどテーマはいろいろです。感話を書く過程で誠実に自分と向き合い、友達の感話に耳を傾け、感想を発表し合う中で、新しい価値観に出会い、自身を相対化していきます」と徳山先生は話す。

 また、美術の授業では繰り返し、自画像を描く課題がある。中1では鏡に映ったそのままの姿を描き、ドライポイントの版画にする。中2ではスプーンのような曲面に映り込んで少しゆがんだ像を描き、自身の違った側面を考える。さらに3年では自分をデザイン化してマークにする。このように自分との距離をだんだん広げていくことで、自分自身とは何かを考え、併せて世界観を広げていくことを目指しているという。

 高2の古賀梨里子さんは、中1の時にこの自画像の課題で、何度も描いては消したことが忘れられないという。「何度やっても思い通りの絵にならず最初は落胆しました。でも、よく鏡を見て顔のパーツを細部まで見ていくと、たとえば瞳は茶や黒の単色ではなく、いろんな色でできていることに気が付きました。頭で想像したものを表現することばかりに気を取られ、目の前にある自分自身の姿を認識できていなかったんです。絵を描くことは技術ではなく発見なんだと意識させられた時間でした」

 小池氏も講演の中で振り返っていたが、同校には特徴的な教育として、聖書の教えに基づく平和教育と、独自の園芸教育がある。小池氏は、恵泉時代に聖書の世界に触れたことが西欧の文化を理解する素地となったことや、園芸の授業で肥料づくりから取り組んだことにより、花を咲かせるには土づくりから始める必要があることを学んだと紹介していた。

 「平和への不屈の意志を持つ女性」は、聖書が教える勇気と愛をもって、平和な世界を創り出すために奉仕し、命を慈しむ女性を育てようと、1929年に恵泉女学園を創立した河井道の思いに直接つながるものだ。

 「毎朝の礼拝では、校長を始めとする教員が世界情勢を交えて分かりやすく平和へのメッセージを伝えており、生徒たちは式典の度に、創設者の願いに思いをはせます。内外から講師を招いて講演を開いたり、映画で戦争や人権問題を考えたりする平和学習の時間もあり、本校で6年間を過ごした生徒たちは、間違いなく平和への思いを強く持って巣立っていきます」と、徳山先生は話す。

 「『いのち』」の尊さを知る女性」は、独自の園芸教育に深く結びついている。同校は、キャンパス内外に3か所の畑を有しており、中1生と高2生は週1回2時間、必修授業として「園芸」を学ぶ。例えば種まきから収穫まで小麦を育て、それを加工してスコーンを作ったり、収穫した綿花から糸を紡いだりする経験を通し、命の循環を知るのだという。

 「植物を育てていると、天候不良や伝染病など、人の力ではどうしようもないことが起こります。その時こそ、命の尊さを知るよい機会です。人間の思いを超えた自然の営みを学び、環境問題を考えるきっかけにもなっています」

 最後に、「知的探究心と確かな学力を備えた女性」を育てるために、同校が行っているさまざま取り組みの中で、重要な機会となっているのが、この日の小池氏の講演を含む各界著名人による講演会だ。毎年11月3日の創立記念日の前日に開かれ、これまでに劇作家・演出家の平田オリザ氏やノーベル物理学賞を受賞した小柴昌俊氏、建築家の妹島和世氏など、世界の第一線で活躍する著名人が招かれて、生徒たちに多様な価値観や学び方を示してきた。

 古賀さんは、この日の講演を聴いて、大いに刺激を受けたという。「ご自身がプロデュースされた海洋廃棄物を素材にしたアート展示について、『ただ環境問題を訴えても響かない、それならあえて廃棄物を美しいものに 変貌(へんぼう) させていくことで、むしろ問題解決に近づけるのではないか』と話されていました。そういう柔軟な考え方に、目からうろこが落ちる思いでした。そして、『こういったアイデアも、普段の生活でどういったものを楽しいと感じるか、というクリエイティブ・マインドを持ち続けることで育まれるのだ』とお聞きし、思いを新たにしました」

 「自ら考え、発信する」姿勢は、友人、家族、仕事仲間、そして後輩にも伝わる。古賀さんだけでなく、多くの恵泉生がこの日、刺激を受け、新しい勇気を受け取ったに違いない。

 (文:藤田覚 写真:中学受験サポート 一部写真提供:恵泉女学園中学・高等学校)

 恵泉女学園中学・高等学校について、さらに詳しく知りたい方は こちら

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