勤めている会社の制度によって、退職金の受取方法の選択肢は異なります。退職金の受取方法には、いくつかパターンがあることはご存知ですか。「一時金」または「年金」による受け取り、もしくはその両方を組み合わせる方法です。
「年金」の方が受取額は多くなる可能性があるものの、所得税など税金や社会保険料の負担を考えると、「一時金」の方がお得な場合が少なくありません。
いったい自分はどのパターンを選べばよいのか、選び方によってはリタイア生活に影響を与えますので、慎重に検討する必要があります。それぞれのメリット・デメリットをおさらいしながら、自分にあった方法について考えてみて下さい。
100歳社会を笑顔で過ごすためのライフプラン、ライフブック(R)(https://www.smilelife-project.com/)を提唱する、ファイナンシャルプランナー・藤原未来がわかりやすく解説します。
目次
退職金の受け取り方で、変わる税金
退職金はどの受け取り方が、お得なのか?
退職金を受け取る場合の税金対策
まとめ
退職金の受け取り方で、変わる税金
退職金(確定拠出年金を含む)の受け取り方法は、「一時金」と「年金」の2つがありますが、税金の課税方法がそれぞれ異なります。
「一時金」で受け取った場合には、「退職所得」として所得税・住民税の課税対象となります。しかし、一時金として受け取った退職金は「分離課税」として扱われ、他の所得と合算されず個別に税率がかけられます。つまり、適用される税率は、比較的低く抑えることができるのです。
「年金」の場合には、「雑所得」として所得税・住民税の課税対象となりますが、「一時金」とは違い「総合課税」として他の所得と合算されます。
「一時金」と「年金」を選択できる場合、受け取り総額は通常「一時金」より「年金」の方が多くなります。「一時金」で受け取ると、「退職所得控除」が適用されるなど税金面での優遇が大きいので、税引後の手取りベースでどちらがお得なのかという観点から判断する必要があるでしょう。
退職金はどの受け取り方が、お得なのか?
まずは、退職金を「一時金」で受け取った場合のメリットとデメリットについてみてみましょう。
【一時金のメリット】
退職金を「一時金」で受け取る場合のメリットは、税金面での優遇が大きい点です。退職金については、長年の勤務に対する報酬の後払いと解釈されるため、金額が大きくても税負担が重くならないようになっています。
具体的には次のように計算された「退職所得」が所得税、住民税の対象となります。
「退職所得」は、次のように計算します。
「退職所得」=(退職金額 - 退職所得控除額) × 1 / 2
「退職所得控除」は、次のように計算します。
勤続20年以下の場合:40万円×勤続年数
勤続20年超の場合 :800万円+70万円×(勤続年数-20年)
退職所得の計算では、上記のように勤続年数に応じた「退職所得控除」を差し引くことができます。つまり、「退職所得控除」の範囲内であれば、税金はかかりません。
例えば、勤続年数が38年なら、「退職所得控除」は2,060万円となりますので、退職金が2,060万円以下なら課税されないということになります。
「退職所得控除」を超えた分は課税対象になりますが、課税対象となるのはその「2分の1」。さらに分離課税の扱いとされるため、給与所得等の他の所得とは合算されません。よって、低い税率が適用されて計算されます。
また、「一時金」の退職所得には社会保険料がかかりません。さらに「年金」で受け取るよりも、受取金額の総額は少なくなりますが、受け取った「一時金」をしっかりと資産運用できれば、「年金」よりもリタイア資金を増やすことも可能です。
【一時金のデメリット】
まずは「使い過ぎ」のリスクがあげられます。退職金を「一時金」で受け取るとまとまったお金が手元に入るので、気持ちが大きくなってつい使い過ぎてしまうケースも考えられます。
また、「一時金」が預金口座に振り込まれると銀行から連絡が来て、「資産運用」を勧められることが多いもの。しかし、内容をよく理解しないままに投資商品を購入してしまい、思惑と違う結果になってしまうことも少なくありません。
次に、退職金を「年金」で受け取った場合のメリットとデメリットについてみてみましょう。
【年金のメリット】
まず挙げられるのは、「一時金」よりも総額で多く受け取ることができるという点です。これは年金の原資を決められた利率で計算された利息部分が、年金支給額に上乗せされるためです。
例えば、2%の利率で計算すると、「一時金」で1,000万円の退職金を10年間の「年金」で受け取ると、毎年約111万円となり受取総額は1,111万円となります。
また、年金の場合は分割して受け取るため、一時金受け取りのようなつい使い過ぎてしまうリスクが少ないのもメリットといえます。
【年金のデメリット】
まずは、税金や社会保険料の面で負担が大きいことがあげられます。
退職金を「年金」で受け取る場合は、年金額に応じた「公的年金等控除」の対象となります。そして、控除額を超えた分は、「雑所得」として毎年所得税・住民税の課税対象となるのです。
「雑所得」は総合課税のため、他の所得がある場合には合算されるため、適用される税率が高まる可能性があります。
また、国民健康保険や介護保険等の保険料は所得に応じて算出されるため、退職金の「年金」受け取りによって保険料の負担が重くなる場合があります。さらに、健康保険や介護保険の自己負担割合は所得に応じて大きくなることにも注意が必要です。
退職金を受け取る場合の税金対策
企業によっては、退職金の受取方法として「一時金」と「年金」、あるいは「両者併用」が選択できるようになっています。その場合、どの受取方法が自分にとってベストなのでしょうか。また、判断する基準はどこにあるのでしょう?
まずは、「退職所得控除」の範囲で「一時金」を受け取り、残りを「年金」で受け取るという順番で組み合わせると税制上のメリットを活用することができます。
先述しましたが、例えば、勤続年数が38年なら「退職所得控除」は2,060万円あります。そのため、この金額の範囲内であれば、「一時金」で受け取れば課税されません。2,060万円を超える部分を「年金」で受け取れば、「雑所得」の金額も抑えられるので、税金や社会保険料の負担も大きくならずに済みます。
ただし、せっかく受け取った「一時金」を無駄にせずに、しっかりと資金管理をする必要があります。
「一時金」を以下の「3つの財布」に分けて管理するとよいでしょう。
(1) 緊急予備資金:いざという時のために手元においておくお金。例)生活費の1年分
(2) 目的資金:今後10年以内に使う予定のお金。例)旅行資金、リフォーム資金など
(3) 長期資金:少なくとも今後10年間は使わずに置いておけるお金。
そして(3)の長期資金は、「長期分散投資」によりリスクを抑えながらお金に働いてもらいます。そして、今後10年以上先のリタイアメント生活に向けて資金を育てていくことにより、「年金」で受け取るよりも多くの資金を得ることを目指します。
まとめ
退職金のもらい方には「一時金」と「年金」があり、それぞれのメリット・デメリットを理解したうえで、自分に最適な受取方法を選択することになります。老後資金がどの程度貯まっているのか、退職後も働くのかなど、様々な要因が絡んできます。ベストな選択を知るためには、リタイア後のライフプランをしっかりと組み立てておくことが肝心です。
生命保険や金融商品などを販売しない、中立的なファイナンシャルプランナーは、相談者の立場に立って最適なリタイアメントプラン作りをお手伝いします。
●編集/京都メディアライン(HP:https://kyotomedialine.com FB)
●取材協力/藤原未来(ふじわらみき)
株式会社SMILELIFE project 代表取締役、1級ファイナンシャルプランニング技能士。2017年9月株式会社SMILELIFE projectを設立。100歳社会の到来を前提とした個人向けトータルライフプランニングサービス「LIFEBOOK®サービス」をスタート。米国モデルをベースとした最先端のFPノウハウとアドバイザートレーニングプログラムを用い、金融・保険商品を販売しないコンサルティングフィーに特化した独立フランチャイズアドバイザー制度を確立することにより、「日本人の新しい働き方、新しい生き方」をプロデュースすることを事業の目的とする。
株式会社SMILELIFE project(https://www.smilelife-project.com)
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更新日:2022年04月27日