マイケル・ブリストウ、BBCニュース
新型コロナウイルスの感染拡大を食い止めてきた台湾がいま、初めて深刻なアウトブレイクに見舞われている。
台湾は市民を守ろうと、必死に新型ウイルスワクチンを探している。巨大な影響力を持つ中国も支援を申し出ている。
この状況が、台湾の指導者を板ばさみにしている。台湾は、その自治権を失うことを望む国から援助を受けるべきなのか。
言い換えれば、新型ウイルス対策は政治よりも重要なのか。
今のところ、台湾は中国政府にノーを突きつけている。
今月中旬までは、台湾はこうしたジレンマは抱えていなかった。累計感染者数はわずか1500人、死者数は12人にとどまっていたからだ。
ところがその後、感染者が急激に増え始め、27日だけで13人が死亡した。
台湾ではワクチン接種を完了して新型ウイルスから守られている人はほとんどいない。
今週までに確保したワクチンは約70万回分だけ。接種を受けた人は、人口約2300万人のたった1%だ。
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中国がワクチン提供の意向
台湾当局は、感染者の急増に対処するにはより多くのワクチンを、早急に確保する必要があることに気付いた。
陳時中・衛生福利部長(保健相に相当)は25日、6月中に200万回分が、8月末までに1000万回分のワクチンが到着すると発表した。
「台湾はワクチン接種の拡大に努めており、輸入ワクチンが続々と到着している」と、蔡英文総統はツイートした。
ただ、台湾は遠くに助けを求める必要はない。
中国側の報道官らは、同国が台湾に必要なワクチンを供給する意思があると明らかにしているからだ。
だが、台湾にとってこの提案に「イエス」と答えるという決断は、政治的に簡単に下せるものではない。台湾と中国が政敵であることがその理由だ。
台湾の指導者たちは台湾の独立性を高めることを望んでいるが、中国はこれに強く抵抗している。
中国は台湾を自国の領土の一部と考えており、台湾と中国大陸を統一したいと考えている。そして、こうした立場を受け入れるよう、台湾や世界に圧力をかけている。
イギリスの東洋アフリカ研究学院(SOAS)のスティーヴ・ツァン教授は、台湾が抱えるジレンマについて説明した。
ツァン教授によると、ワクチン提供をめぐっては、中国側に失うものはなく、台湾に勝ち目はない状況だという。
もし台湾が中国製ワクチンを受け入れれば、中国政府が台湾指導者よりも台湾人に気を配っているように見られかねない。
しかし、台湾が中国製ワクチンを拒否すれば、台湾政府は市民の健康を軽視しているように思われるかもしれない。
後者の場合、「台湾の印象は非常に悪くなるおそれがある」と教授は述べた。
中国の提案受け入れるよう圧力も
蔡総統には中国の提案を受け入れるよう圧力がかかっている。
野党・中国国民党の洪秀柱氏は最近、真の敵は新型ウイルスであり中国政府ではないとし、中国製ワクチンをできるだけ早急に受け入れるよう蔡総統に求めた。
同様のメッセージは、ほかの人たちも発信している。
一方、中国国営メディアは蔡氏の苦しい立場を強調することで、台湾への圧力を強めている。
国営紙・環球時報は蔡氏が中国の親切心と、ワクチン接種を求める台湾人の声を無視していると非難する記事を掲載した。
蔡氏は自身の立場を強めようと、こうした主張に反論している。
26日には、米ファイザー/独ビオンテック製ワクチンの供給確保のための交渉を中国が妨害したと述べた。
「我々は、台湾にワクチンを届けるための我々の活動に対する、外部からの干渉は受け入れない。そして、ワクチン供給を政治的目的に利用しようとする試みも受け入れない」
蔡氏は中国について、助けてくれるのではなく邪魔をしてくる存在だと主張している。
ツァン教授は、ワクチンをめぐるジレンマをどう解決しようとも、蔡氏はこの難局を乗り切るだろうと考えている。
多くの台湾人が中国製ワクチンの安全性や有効性を懸念し、接種を望んでいないことが、そう考える理由の1つだ。
教授はまた、現在は対処可能な状況にあるとした。
「台湾が現時点で我々の心を捉えているのは、非常にうまく(新型ウイルスに)対処した前例があるからだ」
この成功例が感染状況を比較的小さく抑え、ワクチン問題が長期に及ぶ政治的ダメージを蔡氏に与えるのを防ぐはずだと、ツァン教授は述べた。
からの記事と詳細 ( 台湾が板ばさみ 中国からワクチンを受け取るか、政治的立場を守るか - BBCニュース )
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