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Wednesday, December 16, 2020

最安M1 Mac mini、まだApple Silicon最適化されていないPro Toolsの性能に脱帽 - ITmedia

 M1 Macと音楽系クリエイティブワーク周辺の話題を紹介する連載の第2回目は、デジタル・オーディオ・ワークステーション(DAW)を巡る状況について雑感をお届けしたい。筆者は普段、録音や編集の現場では、米Avidの「Pro Tools」をメインに利用し、趣味の音楽制作では、「Logic Pro」(macOS Big Sur以降はXが取れた)を利用している。今回、Apple Siliconには非対応のPro Toolsの検証を実施した。筆者のApple Siliconマシンは、Mac miniの8GBメモリ、256GB SSDという最安値構成モデルだが、Intel Macと比較したところ、その驚くべきパフォーマンスに脱帽してしまったのだ。

photo Mac miniの設置場所としてFOSTEXのスピーカーの上がサイズ的にピッタリ。利便性を考慮し裏向きに置いたのでスピーカーユニットの前にケーブルが垂れ下がり、リスニング環境としては最悪……。

Apple Silicon対応のPro Toolsはいつ登場するの?

 筆者が業務で利用しているPro Toolsは、12月中旬の時点でmacOS 11(Big Sur)には非対応だ。サイトには、「Coming Soon」とある。1つ前のmacOS 10.15(Catalina)に対応したのは、2019年の12月中旬だったので、そろそろ来てもよいことだと首を長くして待っている。

 ただし、上記の話は、あくまでもIntel Macでの話。Apple Siliconへの対応となると、まだまだ先の予感がする。というのは、サイトには、「Big Sur Apple M1 Processor(Rosetta)」「Big Sur Apple M1 Processor」ともに、「Not Yet Supported」と素っ気ない文言が踊っているからだ。

 ただ、急ぐ必要はないと思っている。Pro Toolsは、スタジオ系の録音現場ではデフォルトDAWとしてグローバルに普及している。プロの現場では、新しさより、安定性や確実性が求められるので、新アーキテクチャへの対応の遅れについて、現場から不満の声は大きくないのではないか。筆者自身も、安定性を確保した上でのリリースを望む。

 余談だが、プロが利用する、あるレコーディングスタジオでは、2000年代中期のDigidesignブランド(Avidブランドへの変更前)のPro Tools HDシステムがいまだ現役で活躍していた。録音が終わり、帰り際にラフミックスのオフラインバウンスを依頼したのだが、「できません。リアルタイムのみです」との返答に、「ああ、昔のPro Toolsは、バウンスの時間=リプレイ再生を聴く時間だった」とノスタルジックな気分に浸らせてもらった。

あまりにノートラブルで使えてしまうので拍子抜け

 そんな、Apple Siliconに未対応のPro ToolsをM1 Mac miniで試した。バージョンは、最新版の「2020.11」。といっても、実際の録音現場では、トラブルが怖くて使えないので、以前録音したプロジェクトに対し、プラグインを刺して音を重ねたり、トラックダウン時のオフラインバウンスの速度を計測するといった、ポストプロダクション的な使い方を試すことにした。録音現場への投入は、正式サポートがアナウンスされた後に行いたい。

 Pro Toolsを起動するためにまずやらなければならないのは、iLok License Managerの準備だ。iLokは、多くの音楽ソフトウェアで利用されているライセンス管理システム。これがないと、Pro Toolsを起動させることはできない。とはいえ、iLok License Managerは、M1 Macに正式対応していない。つまり、Rosetta 2を介して起動することになる。

photo ライセンス管理システムの「iLok License Manager」もRosetta 2を介して起動することになる

 ちなみに、他のMacでUSBドングルにライセンスを移動しておき、そのUSBドングルでPro Toolsを起動する方法もあるのだが、利便性やUSBドングルにトラブルがあった場合を考え、iLok License Manager経由のクラウド認証が可能かどうかを試しておきたかった。

 iLok License Managerは無事起動し、Pro Toolsも難なく立ち上がった。試しに、192KHz/24bit録音の24トラックのプロジェクトを読み込んでみたら、こちらも問題なく再生できる。コンプレッサー、ディエッサー、リバーブ、リミッター、イコライザーなど、主だった付属プラグインも問題なく動作した。付属プラグインも、M1 Macには非対応なので、全てRosetta 2で動作していることになる 。

 試しに、バッファサイズを最小の「128サンプル」に設定し、繰り返し再生したり、新規にトラックを追加して音を重ねてみたりと、普段の作業をシミュレートしながら、一通りのプロセスを踏んでみたが、特段、問題もなく普通に使えた。あまりにもノートラブルで使えてしまうので、拍子抜けだ。バッファサイズを最小にしたのは、バッファサイズが小さいときに、録音や再生が突然停止するCPUエラーを、MacBook Proを使った出先録音の現場で幾度か経験しているからだ。

M1 Macのコスパ恐るべし

 ノートラブルは、もちろん喜ばしいことではあるが、M1 Macの検証原稿を書く身としては、ドラマがないと文章が盛り上がらない。何らかのトラブルを気持ちのどこかで待ち望んでいたことを今ここに告白しよう。まあ、それだけ、Rosetta 2が優秀ということの証左なのかもしれない。

photo M1 Macで192KHz/24bit録音の24トラックのプロジェクトを起動し、普段の作業をシミュレートしながら、一通りのプロセスを実施

 ただし、1つ変化があった。それまで、かすかなファンの音とともに、背面の排気口から常温の微風を排出していたMac miniだが、排出風の温度が微妙に上昇していることに気がついた。さすがのM1 Macも、8GBメモリで192KHz/24bitの24トラックプロジェクトをRosetta 2で駆動するのは、それなりに負荷がかかるのであろうか。とはいえ、排気風は少しだけ暖かいかな? と思える程度に過ぎず、本体表面の体感温度は、何も変化していない。

 考えてみれば、Pro Toolsの推奨メモリは32GB以上だ。こちらは、Intel Macを想定した動作条件なので、一概には比較できないのだが、それにしても8GBメモリで同等かそれ以上のパフォーマンスを発揮するわけだから、M1 Macのコスパ恐るべしといったところだ。

恐るべしApple Siliconの実力 静音性は音楽制作にピッタリ

 このままでは、面白くない(?)ので、意図的に負荷をかけてみることにした。「Fabfilter Pro-R」というサードパーティー製のリバーブプラグインを、各トラックに個別に差し込んでみた。普通はこのような使い方はしない。リバーブやディレイ系のプラグインは、複雑な演算処理をしている場合が多いので、CPUの負荷も高くなるとにらんだからだ。

 まずは、Intel Macから、いじめてみよう(?)と思い、32GBメモリを搭載したIntel MacBook Pro 2020でPro Toolsを起動し、再生しながら、24あるトラックの端から順番に、Fabfilter Pro-Rを追加していった。すると、10トラックを超えたあたりから、ファンが大きな音をたて始め、17トラック目で、とうとう図のようなCPUエラーが出て再生が止まってしまった。このときのバッファサイズは、最大の「2048サンプル」にしてあった。

photo 各トラックに順次リバーブプラグインを追加していくと、17個めでCPUエラーが発生し再生が止まった

 それならばと、3個のトラックからプラグインを外し、再度プレイバックを始めると、一応は動作するものの、ファンがけたたましい騒音を上げて高速回転を始めた。野獣の咆哮を連想するその狂気のごとき回転の様は、どうにも心臓によろしくない。壊れるのではないかという恐怖心を覚え1分ほどで再生を止めてしまった。するとファンもゆっくりと回転を下げるものの、本体下部は、かなりの熱を持っている。音楽の制作現場でこんなにノイジーなマシンは使い物にならない。このときのアクティビティモニタのCPUの状態が次の図だ。

photo Intel MacBook Pro 2020の14のトラックに個別にリバーブプラグインを刺して再生中のCPUの負荷。アイドル状態が約19%と高負荷状態

 お次は、M1 Mac miniで、14トラックにリバーブプラグインを刺した同じプロジェクトを起動し再生した。約5分の曲をループ状態にして5回は再生しただろうか。それでも、Mac miniは静かなものだ。排気口からは、かすかなファンの音とともに、微風がそよぐだけ。ファンの音といっても、本当に小さく本体に顔を近づけ耳をすまさないと聞こえない。Mac mini本体近くに設置してある、FOSTEXのニアフィールドモニター(スピーカー)の内蔵アンプが発するヒスノイズの方が大きいくらいだ。このときのバッファサイズは、最小の「128サンプル」だ!

 恐るべしApple Siliconの実力。ただ、この事例の場合、Fabfilter Pro-Rに関しては、M1 Macに対応しているようだ。「Intel or Apple Silicon processor」とサイトの互換情報のところに明記されている。この様にホストのDAWが非対応で、プラグインが対応済みという場合は、arm64命令あるいは、 x86_64命令、どちらのコードで実行されているのだろうか。

 文末で紹介しているAppleの開発者向けサイト「About the Rosetta Translation Environment」の内容から推測すると、Rosetta 2の翻訳時に、2種類のコードが混在することは避けるべきとあるので、この事例の場合は、Fabfilter Pro-Rもx86_64命令で実行されていると推測される。もし、これらが全て、Universal対応になった場合の底力を想像し、拳を突き上げて「あっぷるしりこん、ありがとー」と叫びたくなった。叫んではないけど...。このときのアクティビティモニターのCPUの状態は下図。

photo Intel MacBook Pro 2020と比較してCPUの負荷がかなり小さい。これだけの高負荷再生を実施してアイドル状態が51%であれば十分か

Apple Silicon 対応・非対応のプラグインが混在した場合はどうなる?

 ここで1つ疑問。この先、サードパーティーのプラグインが順次M1 Macに対応してくることが考えられる。そうなると、例えば、Pro Toolsや付属のプラグインは非対応のままなのに、サードパーティーのプラグインだけが対応している、といったケースも考えられる。前述したFabfilter Pro-Rのような混在事例だ。今回の検証時には、トラブルはなかったが、いかなる場面でも、プロジェクト全体として、終始安定的に動作するのだろうか。

 仮に、DAW本体がUniversal対応であれば、「情報を見る」の「Rosettaを使用して開く」をチェックすることで、DAW本体はもちろんプラグインも全てRosetta経由で動作するようにユーザー側でコントロールできる。Appleの開発者向けサイト「About the Rosetta Translation Environment」に、次のように明記されている。

バイナリにarm64命令とx86_64命令の両方が含まれている場合、 アプリの『情報を見る』からRosettaを使用してアプリを起動するようにシステムに指示することができる。例えば、ユーザーはRosetta翻訳を有効にして、arm64アーキテクチャをまだサポートしていない古いプラグインをアプリで実行できるようにすることができる

photo Universal非対応のサードパーティー製プラグインが混在した場合、Logic ProをRosetta 2で起動しなければならないのだろうか?

 いずれにしても、DAWやプラグインにおいてApple Siliconへの対応・非対応が混在する状況は、しばらく続くと思う。その際の安定性は、試してみなければ分からないわけだから、状況によっては、不安と我慢の日々が続くことになりそうだ。

 次回は、Logic Proとプラグイン周りの使用感を検証してみたい。

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