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Saturday, September 11, 2021

<上>現場の疲労 極限近い - 読売新聞

 新型コロナウイルスの新規感染者は、感染力が強い変異ウイルス「デルタ株」の広がりを背景に、7月下旬以降、県内でもこれまでにないペースで増えた。その後減少傾向になったことなどから、12日で県独自の緊急事態宣言が解除されて特別警報になるが、予断を許さない状況が続く。現状を2回に分けて報告する。最初は医療の現場から。(仁木翔大、長沢勇貴)

 看護師詰め所の電話が鳴った。「今、入り口に到着しました」。電話の向こうで患者が不安そうに告げた。防護服にマスク、ゴーグルを着けた看護師が専用入り口に駆けつけ、病室に案内する。

 今月上旬、460床を抱える嶺北地域の中核病院、県済生会病院(福井市)のコロナ専用病棟。軽症や中等症の感染者を受け入れている。

 この感染者は軽症で、正面玄関から離れた専用の入り口で看護師と合流。専用病棟にある病室まで歩く途中、看護師は「息苦しくないですか」などと声をかけ、重症化の兆候がないか慎重に見極める。

 病棟の廊下は、病室側が感染リスクの高い「レッドゾーン」、反対側が医師や看護師が通る「グリーンゾーン」に区分けされている。看護師詰め所の扉には「この先レッドゾーン」「病院職員以外、開閉厳禁」と書かれている。

 「気をつけていたのに。どこで感染したのかわからない」。時に患者はパニック状態に陥る。すぐに看護師らが駆けつけて「大丈夫です、すぐ回復して退院できます」と寄り添う。

 医療スタッフへの感染を防ぐため、診察はできる限り、タブレット端末や電話で対応する。しかし、対面の診察や配膳の際には、昨春取り付けた扉やビニールを通って病室に向かう。入院患者が増加すれば、医師や看護師のレッドゾーンでの滞在時間は1日4時間に達することもある。

 病棟に勤務する40歳代の男性看護師は「感染を抑え込む使命感で持ちこたえているが、精神的にきつい」と吐露する。

 コロナ専用病棟では現在、看護師約20人と呼吸器内科の医師4人、小児科医ら計約30人が従事。7月下旬以降、多い時には1日で5人の感染者を受け入れ、9月上旬のこの日も4人が入院した。

 病床数は昨年4月の2・4倍に増加したが、8~9割は埋まる。通常、退院して空いたベッドは消毒して翌日以降の受け入れに備えるが、余裕がない場合は、退院当日に割り当てることもある。

 患者と接する看護師は、感染から県民を守ろうとする使命感と、未知の病気への不安との間で揺れ動く。

 専用病棟に勤める男性看護師は、「子どもやその友達を感染させたら」との恐怖から昨年夏から1年近く病棟を離れた。それでも、「福井にコロナを 蔓延まんえん させたくない」と最前線に戻った。

 昨年4月には看護師1人が感染した。院内で感染したとみられる。当時は患者の大半は高齢者で、重症化のリスクが高かった。病院に到着すると3、4人がかりで迎え入れ、容体を24時間観察。食事や寝返り、排せつの介助も伴った。

 最近は家庭内での感染が増えており、軽症の患者らが病棟に押し寄せる可能性が常にある。

 笠原善郎・診療部長(62)は「県内の感染者が増えれば、あっという間に満床になる」と危惧し、訴える。「感染リスクで休日も家族に会うことを控えるスタッフがいる。現場の困ぱいは極限に近く、どんな災害でも経験したことがない」

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